2016年11月17日木曜日

蛸壺物語



皆さんは、蛸(たこ)という生き物をしってますか。

海の中に棲む生き物で、足は8本、体はグニャグニャと柔らかく、危険を感じると墨を吹き出す面白い生き物です。

日本では蛸をよく食べますが、蛸を捕まえる方法の一つに蛸壺漁というものがあります。

蛸壺漁は、まず蛸が入りそうな大きさのたくさんの壺に、ロープをつけて磯の周辺や砂利場の海に沈めます。

その後、一日置きくらいに船で引き揚げに行き、壺の中に入った蛸を捕まえるのです。

蛸にとっては、壺の中は天敵から攻撃を受けにくく、とても居心地のいい場所のようです。

このお話は、蛸の女の子『オクティ』と蛸壺軍団『ツボーズ』との闘いの物語。

さあ、はじまりはじまり。



ここは、日本のあとる海の中、小さな子蛸のオクティはいつも岩と岩の間にしがみ付いて生活をしていました。

オクティはたまに岩と岩の間から出て、小さな貝や蟹や魚を捕まえて食べていました。

ある日、オクティが餌を探していると、目の前に壺が落ちていました。

「あれ?昨日はなかったのに、どこから流れてきたのかしら?」と思いました。

すると、少し年上の蛸が近寄ってきてオクティに言いました。

「やあ、オクティじゃないか。どうしたの?目の前にずいぶん住み心地の良さような壺があるけど、いらないなら僕が使うよ。」

年上の蛸はそう言って、あっという間に壺の中へ入っていきました。

「うわぁ、これはいい壺だ。居心地がとてもいいよ。」と、壺の中から聞こえてきます。

オクティも壺に入ってみたくなりましたが、年上の蛸はそこをどきそうもないので、諦めました。

オクティが餌探しを続けようと、その場所を離れようとしたとき、壺にロープが巻いてあることに気が付きました。

そのすぐあと、ゴトゴトと音を立てながら壺が浮き上がりました。

ロープもピーンと張っていたのでオクティはこの壺が罠であったことに気が付きました。

年上の蛸は、「うわーーーーー!」と叫びながら海の外へ引き揚げられてしまいました。

気が付くと、オクティの周りには他にもたくさんの壺があったようで、次々と引き揚げられていきました。

壺の一つがにやりと笑い、「ヒッヒッヒッ、今日もいい蛸が獲れたぞ。俺たちゃ、ツボーズ。最強軍団。」と不気味に言い放っていきました。

オクティは、この時初めて、壺には気を付けなければいけないと思いました。



それから数か月の間、オクティは何度か壺を目にすることがありましたが、どれもロープが付いていたので、それが罠だと気が付きました。

仲間の蛸たちの中には、オクティが「あの壺はきっと罠だよ。」と忠告しても、「何を言ってるんだい。こんな住みやすい所が罠なわけないだろ。」と言って壺で寝てしまい、そのまま引き揚げられてしまった蛸もたくさんいました。

しかし数か月経つと、壺を目にすることはなくなりました。

オクティは少しほっとしました。



一年が経ち、オクティは体も大きくなり立派な蛸になりました。

今日も岩場から出て餌を探していると、不思議な暗がりの中に小さな捕まえやすそうな蟹がいました。

蟹を捕まえて食べ終わると、オクティはとっても眠たくなってきました。

「この暗がりは何なのかしら。岩みたいにゴツゴツしてないし、隙間もなくて落ち着くわ。」

オクティはそのまま暗がりの中で眠ってしまいました。



ゴトゴトゴトゴト

嫌な音がしてオクティは目を覚ましました。

オクティは驚いて壁にしがみ付いていましたが、恐る恐る明るい方を見ているとキラキラ光る水面が見えました。

「あっ、これは罠だわ!」

オクティは、このままだと危ないと思い、暗がりから明るい方へ勇気を振り絞って飛び出しました。

暗がりから飛び出して、振り返ると初めて今自分がいたところが壺の中だったことに気が付きました。

水面に引きあがっていく壺は、不満そうな顔でオクティに言いました。

「今年は餌を付けてきたのに。取り逃しちまった。うーん、悔しい。俺たちツボーズの完璧な作戦だったのに。次は絶対に捕まえてやるー。」

オクティは暗い所にある餌には気を付けないといけないなと思いました。



それから数か月の間、壺を見かけることが多くなりましたが、オクティは気を付けていたので、罠にかかることはありませんでした。

ある日の昼間、壺の一つがオクティに話しかけてきました。

「おい、そこの蛸さん。あんたは俺たちツボーズが罠だっていうことに気が付いているみたいだな。」

オクティは答えました。

「一度引っかかりそうになったから、もうだまされないわ。」

壺は、諦めたような顔をして「悔しいけど、仕方ないな。じゃあ、ちょっと頼みがあるんだけど、聞いてくれないか?」と言いました。

オクティは「何よ。」と答えました。

壺は、「中にくくりつけてある餌の蟹が外れそうになってジタバタしてるんだ。くすぐったくて我慢できないから外しちゃってくれよ。外してくれたら、その蟹はあんたにそのままあげるよ。」と言いました。

オクティは、お腹がすいていたので、その頼みを聞いて蟹をもらうことにしました。

そして、ゆっくりと壺の中に入って、蟹を外そうとしました。

なかなか外れないので、力いっぱい引っ張ると、

バターンと音がして急に真っ暗になってしまいました。

壺がしゃべりました。

「ヒッヒッヒッ、だまされたなー。最新式のツボーズには蓋が付いたのだー。中からは開かないから覚悟しておきな。ヒッヒッヒッ。」

オクティは騙されてしまいました。

オクティはもうだめかもしれないと一度は思いましたが、壺の中の暗闇でじっとしている間に、この蓋は、いつかまた開くときが絶対に来ると思うようになりました。



ザバーーーッと音がして、壺と蓋の間から光が差し込んできました。

壺の中の水がどんどん蓋との隙間から流れ出ていきます。

ゴトゴトゴトゴトという音が響き、壺の中もガタガタと揺れました。

どうやら壺は、もう海から船の上に引き揚げられてしまったようです。

壺がオクティにしゃべりかけました。

「これでお前も終わりだな。俺たちツボーズには、どんな蛸もかなわないのだ。ヒッヒッヒッ。」

壺の中の水がほどんどなくなり、オクティは苦しくなってきました。

オクティは悲しくなって泣きたくなってきました。

すると、急に蓋が開き強い光が壺の中を照らしました。

オクティは驚いて吸盤に力を入れて壺の内側にしがみ付きました。

すると、今までに見たことがない生き物が壺の中を覗き込んできました。

その生き物とは、人間でした。

人間はオクティが壺の中にいることを確認すると、すぐに取り出そうと壺の中に手を入れて、オクティをぐにゃりと掴みました。

オクティは引き剝がされないように精一杯吸盤に力を入れて踏ん張りました。

このままでは、人間の力に負けてしまうと思ったオクティは、人間の引っ張る力を反対に利用して一気に海に戻ろうと思い着きました。

”引いてだめなら押してみろ”です。

オクティはできるだけ人間が本気で引っ張ってくれるように、必死に壺の内側にへばり付きました。

グググググと耐えながら、タイミングを見計らいました。

人間は、オクティがなかなか壺から出てこないので、精一杯力を入れて、

「よいしょーーー!」と叫びながら引っ張りました。

その瞬間を待っていたオクティは、とっさに吸盤の力を緩め、一気に人間の方に向かってジャンプしました。

ぴょーーーん!

急に引っ張る力が弱まったので、人間はオクティを掴んだままバランスを崩して、後ろに大きくよろめきました。

よろめいて船の縁に近づいた瞬間、今度はオクティは人間の顔をめがけて一気に墨を吹き出しました。

墨は見事に顔に命中!

驚いた人間は、掴んでいたオクティを放り出してしまいました。

オクティはふわっと宙を舞い、無事に海に飛び込むことができました。

「ふわー、助かったー。」と言って、オクティは海底の岩場まで大急ぎで帰りました。

船の上では、ツボーズの壺が、

「うわーーー、人間が取り逃した!せっかく捕まえたのにーーー。」と悔しがっていました。



さらに、罠に気を付けるようになったオクティは、このあと平和に海での生活を楽しみましたとさ。

おしまい。



作:ウエスギ セン

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<参考Webサイト>
・ 「こどもそうだん - たこつぼ漁(りょう)の方法についておしえてください。」(農林水産省)(http://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0210/06.html

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